未来への一歩

北区役所の環境への取組み
~ゼロカーボン実行計画をもとに~

北区は、令和3(2021)年6月に、2050年までに区内の二酸化炭素排出量実質ゼロを目指す「北区ゼロカーボンシティ宣言」を表明しました。
また、「ゼロカーボンシティ」の実現に向けて、北区における温室効果ガス総排出量を削減すべく、「北区環境基本計画2023」及び「北区役所ゼロカーボン実行計画」を策定。これらの計画の進捗状況については、毎年度発行する「北区環境活動レポート」及び「北区の環境」にて、区民・事業者等に広く公表しています。

 

このうち、「北区役所ゼロカーボン実行計画」においては、北区役所としての二酸化炭素(以下、CO₂)排出量削減の計画目標として、令和12(2030)年度までに、基準年度である平成25(2013)年度比で51%削減を掲げています。それを実現するために、「再生可能エネルギー電力の導入推進」「環境に配慮した区有施設及び庁有車の整備推進」「職員の環境行動の推進」という大きく3つの取組みを実践しているところです。そうした北区役所の活動について、環境課の担当者に話を聞きました。

(向かって左側:同係 木竜咲希、右側:北区 生活環境部 環境課 環境政策係 吉田直人係長)(向かって左側:同係 木竜咲希、右側:北区 生活環境部 環境課 環境政策係 吉田直人係長)

「北区役所ゼロカーボン実行計画」が策定された背景と特徴を教えてください。

(吉田)「北区役所ゼロカーボン実行計画」は、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づく地球温暖化対策実行計画として定めました。区民や区内事業者のみなさんにむけて、北区役所が率先して環境に取り組む姿勢を見せることを目的の一つとしています。ゼロカーボン実行計画は令和5年度からスタートしたものですが、温対法に基づく実行計画自体は以前からありました。

 

北区役所では、区における最大規模の事業者として率先して地球温暖化防止をはじめとする環境配慮の取組みを推進するために、環境省が推奨する「エコアクション21」の認証を取得し、環境配慮の取組みを推進し、事務事業の効率化を図っています。

 

今回ゼロカーボン実行計画は、第6次地球温暖化対策実行計画として策定しましたが、社会全体で温暖化対策がますます重要なテーマになっていることを受け、計画のタイトルを「地球温暖化対策実行計画」から「ゼロカーボン実行計画」に変更しました。

 

また、これまでの実行計画は、国の計画に準じて、数字を更新する程度の変更でしたが、今回の「ゼロカーボン実行計画」では、策定に先立ち、庁内の各部署の役職者を集めて検討委員会を立ち上げ、部署ごとの意見を事前に吸い上げながら決めていくというプロセスを踏んでいます。

 

北区役所ゼロカーボン実行計画図:第6次地球温暖化対策実行計画として策定、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づく地球温暖化対策実行計画として定めました。

「ゼロカーボン」は、とても大きな目標ですね。

(吉田)北区が掲げるゼロカーボンに向けた目標は、非常に高く、野心的な数値です。しかし、それを達成しないと、現実問題として2050年の世界は大変なことになってしまいます。その現実を受け止めた上で、逆算して目標設定したのですが、それが机上の空論となってしまわないように、実現可能性を意識して導きだしたのが、取組みにおける3つの柱です。

 

「再生可能エネルギー電力の導入推進」「環境に配慮した区有施設及び庁有車の整備推進」「職員の環境行動の推進」という3つの柱については、各職員個人ではなく、組織的にどう取り組めるかが大事になってきます。ですので、策定に先立ち各部署と事前に目線合わせが出来ていたのはよかったと思います。
5年間の計画期間のなかで、どこまで計画通りに実行できるか、と今まさに挑戦が始まったところです。

区の職員が能動的に取り組むための工夫は?

(吉田)区の職員にむけて、日々の業務にあわせた「環境行動チェックシート」を設けました。このチェック項目を埋めていくことで、自分が出来ていることと出来ていないことが分かるようになっています。

 

併せて、これは以前から取り組んでいたことですが、庁内における通信紙として「ゼロカーボンCITYKITA通信」を作っており、令和5年度からは区民にむけても公開しています。これを定期的に区役所内に配信することで、環境分野に関わりが薄い職員に対しても、環境をよくするための行動として、どういうことが求められているのか、自分たちに何が出来るのかを伝える役割を果たしています。
「いい取組みだね」という感想をもらうこともあって、区役所内での啓発につながっていると感じています。

環境行動チェックシートの項目はどのように具体化したのですか?

(木竜) ベースとなったのは「第5次北区役所地球温暖化対策実行計画」です。これまで継続して取り組んできたことは引き続き盛り込んだ上で、昨今、大きな課題として取り沙汰されるプラスチック削減などを追加し、ブラッシュアップしました。
皆さんが分かりやすいように工夫し、簡潔に箇条書きにしました。

 

(1)省エネ活動の推進
①空調機器の管理
使用していない会議室等の空調は停止するなど、必要な箇所のみ稼働する
空調機のスイッチ付近に、空調エリアを表示する
室温目標(夏季 28℃、冬季 20℃)を目安とした運転、また運転時間(原則 8︓30〜17︓
00)を設定する
外気温度が概ね 20℃〜27℃の中間期は、窓の開閉等により外気の導入や換気を行い、室温を調
整する
ブラインドやカーテンを利用し、熱の出入りを調節する
夏季におけるクールビズ、冬季におけるウォームビズの工夫により、冷暖房の使用を抑制する
②照明機器の管理
使用していない場所・時間帯におけるこまめな消灯を行う
照明の間引き、昼休み・残業時には必要箇所だけ点灯する
照明のスイッチ付近に、点灯範囲を表示する
点灯時間の適正化による照明使用時間の短縮を行う
③OA 機器等その他の電気使用量の抑制
OA 機器は、使用していない場所・時間帯においては電源を切る
ただし、電源を切ることが難しい場合は、省エネモードにする
電気製品(電気ポット等)は、極力台数を整理し、必要最低限の使用に努める
また、使用していない場合・退庁時は電源を切る
離席時は、パソコンのディスプレイ(液晶パネル等)の輝度を調整、スリープ機能を活用する
「ピーク電力」を抑えるため、電力需要ピーク時間帯(夏季昼間など)等の省電力対策に努める
原則週2日(水曜日と金曜日)は定時退庁日とし、照明・電気機器等の集約的な使用に努める
なお、変則勤務職場においては、業務の実情に応じて定時退庁日を週2回設定のうえ、照明・電気
機器等の集約的な使用に努める
エレベーターの利用を抑制し、階段の利用を心がける
④水使用量の抑制
手洗い、トイレ使用時等においては、蛇口をこまめに閉める
使用後は確実に締栓する(北区役所で導入している「環境行動チェックシート」の一部)

区役所職員の皆さんの反応は?

(吉田)本来の業務に組み込むかたちで、環境活動が部署内で出来ているかを重視しているのですが、「こういう取組みをやった」という情報を集めていると、日々、いいアイデアが挙がっていると感じています。

 

北区は「エコアクション 21」の認証を受けているのですが、そのためには「エコアクション 21」の審査を毎年必ず受けるようになります。施設や既存の取組みについて評価してもらったり、「こうするともっといいかもしれないですね」といったアドバイスをもらったりしています。第三者的視点で定期的にチェックが入ることで、いわゆるPDCA(計画~実行~チェック~改善)のサイクルが、いいかたちで回っています。

 

(木竜)当初、「電気の使用量を削減する」「照明を間引きする」といった目標を挙げる部署が多かったのですが、「エコアクション 21」の審査員の方からは、本来の業務と関連づけた目標を立ててください、といったアドバイスをいただきました。 省エネといっても、単にエネルギー使用量を減らすというのではなく、本来の業務を行いながら環境にもいい効果が表れるような活動として目標設定をすることを改善点として意識しています。

 

(吉田)考え方や理念は各部署に伝わっていると感じています。「エコアクション 21」の審査が終わった後に、「こういう話が聞けてよかった」という感想をもらうこともあるんです。そんなふうに、まずは一人ひとりの職員の意識を変えていくということを軸にしていきたいと考えています。

吉田さんご自身は、どんな想いで環境に取り組んでいますか?

(吉田)私は環境課の係長として、令和4(2022)年に着任しました。今回の「ゼロカーボン実行計画」を策定し、実行に移していくスタートラインに立った感覚を、着任当時に覚えました。そこから日々の業務のなかで新しいことを次々と展開していて、そこが自分としてはとても面白いと感じています。

 

役所の仕事は困っている人を助ける事業が多いのですが、環境に関しては、ひたすら「プラスな状態」を目指して進めていくイメージなんです。新しい技術や新しい発想を取り入れながら何ができるかを模索し、掲げた目標に向かって進んでいく。そんなふうにポジティブに前を向いて取り組める仕事だと自分自身は捉えています。そういう意味ではすごくやりがいがあるし、楽しいです。

 

とはいえ、最初からすごく環境に興味があったというわけではありませんでした。当初は、環境について何かしなくちゃいけないと頭では分かっていながらも、それをしたところで実際にどうなるのか? と、「よくわからない」というのが正直なところでした。

 

環境課に異動してから、世界が置かれている状況について一から勉強を始めました。すると、いろいろなことが巡り巡って、脱炭素やその他の環境問題につながっていることが分かりました。解決にむかって選択肢はたくさんある。目指す先に向かってどう進んでいくのか、その道筋を描いていく仕事なんだと理解しました。

木竜さんはいかがでしょう?

(木竜)私は環境課に配属されて、令和5年度で6年目です。その当時、環境と聞いたときは、区民の生活とはかけ離れた、壮大なテーマにむかって事業を進めていかなければいけないという印象を抱きました。

 

通常、役所では区民への対応が基本の仕事です。どの部署も、区民の生活をよりよくするために、区民の生活のすぐ近くで仕事をしています。でも環境課では、たとえばCO₂排出量の削減といった大きなスケールで仕事をしているため、区民の生活にどのように結びつくのかが感じられにくいという難しさも感じています。

環境課題に取り組む難しさは、どんなところにありますか?

(木竜)環境課ではCO₂排出量削減を大きな目標にしているのですが、具体的に今やっている業務を含めて、取り組んでいる成果がすぐには数字に表れてこない点です。
たとえば、北区の学校で環境学習を行っているのですが、それを行うことで、実際のCO₂排出量削減にどれだけつながっているのかは数値化できないので、もどかしいですね。

 

(吉田)見えないものに立ち向かっているというのが、いちばん難しい点かなと私も思います。業務として担っている私たちですら、見えないものに対して模索しながら進めている状況なので、ふだんの生活をしている区民や事業者の皆さまが環境の課題を認識するというのは、実際にはかなりハードルが高いのではと思っています。

 

一方で、温室効果ガスは必ずしも区役所だけが排出しているわけではありません。区民や区内事業者の皆さまが、ふだんの生活しているなかで排出しているものでもあり、特に北区では区民・区内事業者の排出量が7割を占めます。とすれば、そこが改善されない限りは解決していかないのです。

 

ですから、その点をいかに分かりやすく認識してもらうかが最も大きな課題ですし、逆に言えばそれが出来れば、結果的には効果的な取組みになるのではないかとも思います。

 

先ほどの環境学習も、直接的な数字としては成果として捉えづらいけれど、そうした活動を通じて区民の考え方や日常生活のなかでの行動変容に効果が出てきてもらえたらと期待しています。この環境ポータルサイトを見てくださる方にむけても、北区や地球環境の「今」という現状を分かりやすく発信していきたいです。

 

向かって左側:同係 木竜咲希、右側:北区 生活環境部 環境課 環境政策係 吉田直人係長

区民・区内事業者の皆さまへメッセージをお願いします。

(吉田)環境への取組みは、区役所だけでは出来ません。
ふだん、皆さまが暮らしのなかで役所の仕事に興味を持つことは少ないと思うのですが、この「環境」というテーマでは公共の課題として、家庭や職場においても話題にのぼることがあるのではないでしょうか。

 

おそらく全く無関心という方は少なく、多くの方が「関心はあるけど、何をしたらいいかが分からない」のではないかなと思います。皆さまに向けて「こんな行動をしたら結果につながっていく」という具体的な情報を、この環境ポータルサイトで、より分かりやすく提供できるよう日々検討に努めています。

 

一人ひとりの行動によって表れる数字は小さいかもしれませんが、もしそれが35万人の区民全員、区内事業者全員が同じ方向を向いて出来たなら、それはとても大きな力となって、よりよい方向にむかっていけるはずです。

 

そのためにも、ぜひこの環境ポータルサイトを活用していただいて、日常生活のなかで自分なりに実践できることを見つけていただきたいです。全部やろうとすると大変なので、自分にとって無理なく出来ることを選びながら、暮らしや事業のなかで継続的な行動に落とし込んでいくお手伝いができること。それが、この環境ポータルサイトの役目だと思っています。そういった視点で、ぜひ多くの方にご覧いただきたいですし、活用していただきたいです。

 

※所属・役職は取材当時のものです(令和5年12月)